妖怪の定義

「妖怪って何?」でもお話ししましたが、妖怪とは端的に言えば、「よくわからないけど怖いもの」です。
また、「井上円了の科学的な妖怪論」でも妖怪とはそのほとんどが科学で証明できるというお話でした。
この2つをまとめて考えてみると、実は妖怪には致命的な弱点があります。


全ての妖怪に共通する致命的な弱点
それは、正体を見破ってしまえばいいのです。
例えば、井上円了はこっくりさんの正体を予め心の中にある答えを予想してしまう「予期意向」と無意識に筋肉が動く「不覚筋動」が合わさることで発生する現象であることや火の玉は天然ガスが原因だと次々と怪異や妖怪の正体を見破ってしまいました。
そうして見破られた怪異や妖怪は、「よくわからないもの」ではなくなり、「怖いもの」でもなくなってしまいます。
すなわち妖怪としての「死」を迎えます。

見破るには

見破るヒントは神話や昔話に残されています。
例えば、火の神を産んで死んでしまった妻「イザナミ」に会うために死後の世界へ行った「イザナギ」や助けた鶴が人に化けて恩返しに来たときのおじいさんとおばあさんの行動。そして、その後どのようにして本来の姿がわかったのかがヒントです。


「イザナギイザナミ神話」と「鶴の恩返し」の共通点

イザナギは死後の世界の住人となったイザナミが現世へ復活するのを別室で待つように言われたが、我慢できず襖に穴を開けて覗いてしまいます。
また、鶴の恩返しでは、毎夜別室で機を織る鶴が気になり、覗いてはいけないという約束を破り襖に穴を開けて覗いてしまいます。
この2つの話の共通点は、穴から覗くという行為です。

覗くことで殺された妖怪

山女郎(やまじょろう)という妖怪がいます。名前の通り山に住む女の妖怪ですが、この妖怪を崖の上で見つけた猟師は鉄砲で狙って撃ちますが、何発撃っても当たりません。そこで、鏡を覗き込みそこに映った山女郎を撃ったところ命中し、谷底に落ちていきました。
また、長野県では狐の窓(後述)を作りその窓から息を吹きかけると狐火や魔物を消すことができるとされています。

覗くことで見えるもの

海で怪しい船を見かけたら、股の間から覗くことで船底が海面を離れて走っていたり、帆先の十字の先がなくなって正体が舟幽霊(ふなゆうれい)であると判明したりします。
また、「川の神の正体」「人魂」「異国の人家」などが見えるとされています。

一番手軽な覗き方

最も手軽で簡単な覗き方としては、「股のぞき」でしょう。
これは、日本三景のひとつ「天橋立」を見る際にとる仕草として有名ですが、これは、対象に尻を向けた格好つまり相手を無視しながら、それでいて相手の様子を伺うことができるという特徴があります。
また、上半身と下半身の向きが逆で、顔は下にさげて後ろを見ているが足は前を向いて立っているという、上下と前後があべこべとなっています。簡単に言い換えれば、1つの体で上下前後を同時に表現するこの姿勢ですが、そのどれでもない(上でも下でも前でも後ろでもない)ことで、この仕草自体が境界となっています。
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以前、妖怪の出現場所として「境界」に出現すると説明しましたが、この仕草を行うことで自分が怪異や妖怪と同じ次元になり、その正体を見破りさらにその侵入を防ぎ退散させる魔よけの効果もあります。

その他の覗き方紹介

その他の覗き方としては、東北の猟師である「マタギ」はその銃に横向きに穴があり、怪しいものを見つけたら、銃を横に掲げてその穴から対象を覗き込んだそうです。
また、袖のぞきというものもあります。その名の通り片袖を頭の上にかざす、もしくは袖をかぶった状態で袖の下から相手を覗く仕草で、自分の姿を覆い隠した上でそっと相手を覗き見る仕草です。
袖のぞき

狐の窓

狐の窓(きつねのまど)は指を組んで窓を作ってそこから覗く仕草です。
元は、お天気雨の際にこの狐の窓を通して覗くと狐の結婚式である「狐の嫁入り」が見られるということがありました。
その作り方とは
まず、両手の中指と薬指を曲げて親指をつけた狐頭の形を作ります。

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次にその狐頭を表裏の状態でつけます。

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そして、指を開きます。

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最後に両手の中指と薬指を小指側へ近づけます。

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この仕草の特徴も手のひらと手の甲が同時に両面にある点、つまり表と裏が同時に存在しているが、そのどちらでもない状態です。先程の「股のぞき」と同じく2つ世界に接していながらそのどちらでもないという「境界」を表しています。


禁忌(taboo)

袖のぞきでは、通常見えないものの正体が見えてしまうため「袖の下から見るとのではない」と禁忌として扱われる場合があります。
狐の窓では、窓から狐や魔物を覗いて息を吹きかけると消えると言いますが、あくまでその対象は狐や魔物であって人に向けてはならないと言われています。大分県では、狐の窓から人に息を吹きかけると吹かれた人が死ぬとされており禁忌とされています。

まとめ
・妖怪は覗くことで正体を見破れる
・正体が判明したら妖怪としての存在意義を失い「死」を迎える
・「股のぞき」「袖のぞき」「狐の窓」はいづれも体の肝要な部分を隠したうえで相手を覗き見る行為
・上記の方法は2つの世界に接しながらもそのどちらにも属さないという「境界」を表して、正体を見破ると同時にその侵入を防ぐ魔よけでもある
・覗くという行為は、怪異や妖怪に対して非常に有効であるが、人に対して行ってはならない禁忌でもある

日本怪異妖怪大事典
東京堂出版
2013-07-12

しぐさの民俗学―呪術的世界と心性
常光 徹
ミネルヴァ書房
2006-09-01


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